INTERVIEW ジャンプラ読切沼のわたしたち

「ベタですけど、親父の命日に読み直しました」
佐久間宣行を虜にする「日常で異常な」
ジャンプラ読切の世界

「少年ジャンプ+」10周年を記念した特別インタビュー企画「ジャンプラ読切沼のわたしたち」。この企画では、ジャンプラ読切の魅力にどっぷりはまって抜け出せない、7名の漫画好きの著名人にオススメのジャンプラ読切をセレクトしてもらい、その魅力を存分に語っていただきます。

第4回となる今回は、テレビプロデューサーの佐久間宣行さんに話を聞きました。
テレビ、YouTube、Netflixなど様々な映像メディアで精力的に番組を作りながらも、多忙の合間を縫ってあらゆるエンターテイメント作品をチェックしている佐久間さん。
中でも、漫画への愛は並々ならぬものがあり、ラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO))』やSNSでも漫画作品にたびたび言及されます。

40年以上、絶えず漫画を読んできた佐久間さんに、なぜこんなにも漫画を愛しているのか、どういう漫画に惹かれてきたのか、根掘り葉掘り伺いました。後半ではジャンプラ読み切りのオススメ作も熱量全開で紹介いただきます!

テレビプロデューサー
佐久間宣行
テレビプロデューサー、ディレクター、演出家、ラジオパーソナリティ、作家。『ゴッドタン』『トークサバイバー! 』シリーズなどのテレビ番組、配信作品を手掛ける。「オールナイトニッポン0 (ZERO)」の最年長パーソナリティの他、バラエティ番組のMCとしても活躍。YouTube チャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」は登録者数230万人を突破。

めくるめく漫画遍歴。10歳で読んだ、初期「こち亀」と士郎正宗。

佐久間さんは漫画好きとして知られ、雑誌『CREA』(文藝春秋)による「CREA夜ふかしマンガ大賞」の選考員も務めています。そもそも漫画にハマったのはいつ頃ですか?

小学生のときですね。教室で漫画雑誌を回し読みしてたんですよ。何よりも『週刊少年ジャンプ』の存在は大きかった。バリバリのジャンプ黄金期だから全部鮮明に覚えてます。『キャプテン翼』(高橋陽一、集英社)『Dr.スランプ』(鳥山明、集英社)『ストップ!! ひばりくん!』(江口寿史、集英社)『キン肉マン』(ゆでたまご、集英社)……我々はキン消し(キン肉マン消しゴム)とビックリマンシールの世代ですからね。ちなみに小学2年生のときに任天堂からファミコンが出て、リアルタイムで遊んでいたのも自慢です。ゲームの進化を目の当たりにできた幸せな世代でした。

漫画全盛期とゲームの黎明期を知るなんて羨ましいです。そして週刊漫画雑誌の回し読みも学校ならではの風景ですね。

『週刊少年ジャンプ』『週刊少年マガジン』(講談社)『週刊少年サンデー』(小学館)とそれぞれ担当がいました。僕は「サンデー」係で、「なんでジャンプじゃないんだよ!」と思ってました(笑)。でもそのおかげで「サンデー」を重点的に読めて、これは結果的にすごくよかったですね。当時連載されていた、ゆうきまさみ先生の『究極超人あ〜る』、原秀則先生の『ジャストミート』、高橋留美子先生の『うる星やつら』(3作いずれも小学館)が大好きでした。留美子先生は当時『週刊ビッグコミックスピリッツ』で、『めぞん一刻』(小学館)も連載してて、びっくりしましたよ。漫画家って、同時にふたつの作品を、しかも週刊で描けるんだって。しかもどっちもめちゃめちゃ面白いし。こういう人を天才というんだな、と初めて意識した人ですね。

他にはどんな漫画を読んでましたか。

ふたつ下の妹が買ってたので、『りぼん』(集英社)も読んでたんですよ。『有閑倶楽部』(一条ゆかり、集英社)が大好きで、コミックスも持ってました。 『星の瞳のシルエット』(柊あおい、集英社)『ときめきトゥナイト(池野恋、集英社)『ポニーテール白書』(水沢めぐみ、集英社)あたりも妹がコミックスを買ってたから繰り返し読みましたね。『りぼん』でラッキーだったのは『ちびまる子ちゃん』(さくらももこ、集英社)を1話からリアルタイムで読めたことです。衝撃を受けたもんなぁ。

友達との回し読みや、妹の購読誌を通じてリアルタイムの漫画を読んでいた佐久間さんが、より漫画にハマっていくきっかけはなんだったのでしょうか?

母方の祖父ですね。小さい頃は月に一回、ダンボールいっぱいのお菓子を送ってくれてたんですけど、10歳になって「お菓子はいいから、漫画くれよ」と頼んだら毎月漫画を送ってくれるようになった。そこでもらったのが、古い「こち亀」(秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、集英社)でした。多分、祖父が読み終わったのを適当に見繕ったんでしょうね。おかげで初期の「こち亀」の魅力に気づきハマりました。

初期「こち亀」のどこに惹かれたんでしょうか。

「星 逃田(ほし とうでん)」という刑事のキャラクターがヤバかったんです。「ホシ(犯人) 逃した」の当て字なんだけど、そいつはメタ的な存在で。読者に語りかけてくるキャラクターだったんです。今で言えば「デッドプール」(マーベル・コミックの作品に登場するスーパーヒーロー)、昔でいうと赤塚漫画みたいな感じ。おそらく、僕が初めてメタ構造に触れたのが彼でした。当時はデッドプールも赤塚漫画も知らないから、「これは革命だ!」と興奮しましたね。あと、祖父が送ってくれた漫画だと『ブラックマジック 士郎正宗初期作品集』(士郎正宗、青心社)が、人生を決定的に変えてくれました。

士郎正宗は『攻殻機動隊』(講談社)で知られる漫画家ですね。

僕は『ブラックマジック』がきっかけで、SF好きになったんです。とにかく世界観がすごいんですよ。地球に住めなくなって各惑星に移住した人類が、科学と魔法が入り乱れる星間戦争を起こすというストーリーで。そういう世界観は漫画はもちろん小説や映画でも触れてこなかったから、本当にびっくりしました。この時期に出会ったおかげでたくさんのSF作品に触れることができましたね。『ブラックマジック』は、小6のときずっと持ち歩いてたもんなぁ。

佐久間さんはよく『機動警察パトレイバー』(ゆうきまさみ、小学館)を挙げるので、SF作品に触れたのは、そちらが先かと思ってました。

あぁ、もちろん、作者のゆうき先生が描いてた『究極超人あ~る』も大好きだったから、当然『機動警察パトレイバー』にも痺れました。でもあれは多分OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)が先なんですよね。当時はテレビや映画のアニメ作品とは別に、VHSでアニメが制作されてて。でもそれが平気で1本1万円とか超えるから、小中学生にはとても手が出せなかった。脱線しますけど、それでも「パトレイバー」は安い方だったんです。なぜかというと、本編の途中にCMを入れてたんですよ。

斬新な売り方ですね……!

多分「パトレイバー」はそのスキームの先駆けだったんじゃないかな。といっても、当時の僕にはまだ買える金額ではなかった。ところがなんと、サンデーの懸賞で6本セットを当てたんですよ! そういう流れもあって「パトレイバー」にはハマりましたね。劇場版1作目があまりに面白すぎて、周りが『魔女の宅急便』(宮崎駿、スタジオジブリ)で盛り上がってる中、俺だけ「パトレイバー」の話してましたもん(笑)。みんなが好きなメジャーな漫画やアニメも好きなんだけど、それ以上に自分が偏愛する作品に没頭するタイプの子どもでしたね。「ジャンプ」の中でも「こち亀」が一番好きでしたし。そんな子どもは周りにいなかったですよ(笑)。

漫画で次々と傑作が生まれるワケ「チームプレーでは難しい」

小学生時代の漫画遍歴からして早熟だなと思ったんですが、それから大人になるまではどんな風に漫画と付き合っていましたか?

漫画は本当にずっと好きですね。中学高校になって映画やドラマ、お芝居にもハマりましたけど、人生で一番長く付き合ってるエンタメは、漫画かもしれない。中学生になって引っ越したんですが、家の近所にどでかいブックセンター兼レンタルビデオ屋ができて。あの店がなかったら、今の自分はないんじゃないかな。

当時は新刊漫画もシュリンク包装されてなくて、立ち読みできたんですよね。そこで『伝染るんです。』(吉田戦車、小学館)の1巻を立ち読みしてヤバっ!と思い、すぐに買いましたもん。その一方で祖父からの漫画配給も中3まで続いたので、『火の鳥』(手塚治虫、講談社)や『ブラック・ジャック』(手塚治虫、秋田書店)といった漫画の古典は、引き続き祖父に送ってもらってました。

佐久間さんは大人になった今でもすごい量を読んでますよね。多忙の中で、どうやって読んでるんですか。

スケジュール帳に、いつ何を読むかまで入れて、漫画を読む時間を確保しておくんです。そうでもしないといつまで経っても読めないから。まあ、それでも途中で「これヤバ......」って作品が別に現れて、そっちを読みふけっちゃうこともあるんですけどね。それと、これは力技なんですが、気になる漫画はとりあえず電子書籍で買ってしまいます。買うかどうか迷う時間すらもったいないから。電子で読んで気に入ったら、妻と娘にも読んでほしいのでコミックスでも買う。ある程度お金に余裕が出たときに、漫画と映画とお芝居にはお金を惜しまないと決めたんです。

自分にとって大事な作品を読み返す機会はありますか?

もちろん。『うしおととら』(藤田和日郎、小学館)や『SLAM DUNK』(井上雄彦、集英社)、『レベルE』(冨樫義博、集英社)は死ぬほど読み返してますね。『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)は「キメラアント編」に一度手をつけちゃうともうダメです。ずっと読んじゃう。『ONE PIECE』(尾田栄一郎、集英社)も折に触れて読み返すんですが、こないだ仕事の合間に「マリンフォード頂上決戦編」をジャンプラで読み始めたら止まらなくて......結局、課金して読んじゃいました。全巻コミックスで持ってるのに! あれはマジで意味わかんなかったなぁ(笑)。

ついつい課金しちゃうのは「少年ジャンプ+」あるあるですね......(笑)。

ジャンプラってアプリを開かない日がないくらい読んでるので、何かのきっかけで好きな漫画が目に入ると、つい課金してまで読んじゃうんですよね(笑)。本誌も「少年ジャンプ+」で定期購読してますし、日々更新される連載も面白い漫画が多すぎる。『チェンソーマン 第二部』(藤本タツキ)、『正反対な君と僕』(阿賀沢紅茶)『推しの子』(赤坂アカ×横槍メンゴ)『ふつうの軽音部』(クワハリ/出内テツオ)『MAD』(大鳥雄介)……挙げたら切りがないです。

ちなみに紙と電子、しいて言うならどちら派ですか?

これがね、50歳近くになると電子の方がありがたいんですよ、もう老眼が始まってるから。サイズは変えられるし、バックライトもついてるしで、読みやすいんです。あと、でかいモニターで見ると、迫力が段違いで感動する作品ってあるんですよね。『ONE PIECE』がまさにそうで、コミックスを読んでるときとは違う発見がある。映画でいうとIMAXで観るような感じかもしれない。『AKIRA』(大友克洋、講談社)とか、でっかいモニターで読んだら絶対感動しますよ。まあ好きな作品は紙でも持っておきたいので間違いなく買いますが、読むときは電子が多くなりました。

佐久間さんは、漫画から仕事のアイデアやヒントを得ることってありますか?

それはもうめちゃくちゃあります。直接的にすぐ使うっていうよりは、思想や嗜好で影響を受けたり、「これを映像でやったらどうなるだろう」と考えたりします。あと、最も参照してるのは、作品の構造ですね。抽象的な話になっちゃいますけど、バラエティにおける裏切りのパターンは、漫画からたくさんのことを学んでます。

具体的に、参考にしている漫画や作家を教えていただけますか?

『SKET DANCE』や『彼方のアストラ』(いずれも集英社)の篠原健太さんは、どれも構造の面白さがすごくて参考になりますね。僕の好きな形として、「話の導入から段々とズレて、全然違う物語になっていく」というのがあるんですけど、篠原さんはまさにこれ。綿密に構造を作って読者を驚かせる篠原さんの方法論は、僕でも盗めるところがあるんじゃないかと思って分析しますね。鬼才の傑作やギャグとかは再現性がないから参考にならないんですよ(笑)。

改めて聞きますが、佐久間さんにとって漫画とは?

「日常なのに異常」、ですかね。異常にクオリティの高いエンタメを、こんなに毎日浴びられることの幸せを噛み締めてます。今はどのジャンルのエンタメも、チームプレーで作るのが当たり前で、さらにマーケティング的な視点まで入ってくるじゃないですか。ポップカルチャーってチームプレーで作ると、ある範囲内に収束してしまい、とんでもない振れ幅のものは生まれにくい。

でも漫画だけは、作家が自分のクレイジーなアイデアを、自らの手で表現しきってしまう。その執念によって、とんでもない傑作がゴロゴロ生まれているわけです。しかもぶっ飛んだ作品が、大衆に受け入れられている土壌が漫画にはある。こんな現象って他のエンタメにはないでしょ? だからこそ、この国から世界に通用する漫画作品が次々と生まれてるんじゃないですかね。僕も広く言えば同じエンタメ業界に生きる者ですが、漫画は仰ぎ見ることしかできない永遠の憧れです。

短編なのに問いを提示するだけでなく、答えまで描ききる。

今回、佐久間さんには「少年ジャンプ+」の読切作品から3つ、おすすめ作品をご紹介していただきます。まず、選考基準を教えてください。

最初に読んだときの衝撃が強くて、今もなお記憶に鮮明な作品の中から選びました。だから結構昔のもありますね。ウェブの漫画メディアのいいところは、単発の作品が残り続けること。しかも「少年ジャンプ+」は無料。だから人に勧めやすくて助かります。

まずは三崎しずか『美術部の上村が死んだ』です。

これはびっくりしました。1ページ目で「上村が死んだ」とまずタイトル通りに進んだかと思いきや、次のページで「そして生き返った」といきなり裏切る。この切れ味と裏切りが見事です。しかもヒューマンドラマ的な展開かと思いきや、SF要素を挟みつつ、「ネタバレされた人生は生きるに値するのか?」といった深いテーマまで提示してくる。これだけの話を手際よく見せる手さばきに、惚れ惚れします。

『美術部の上村が死んだ』(©三崎しずか/集英社)

上村は黄泉の世界で、自分が誤って死なされたことを知り、蘇生させられるわけですが、そのとき偶然、自分の本当の寿命とこれからの人生を知ってしまいます。それが「ネタバレされた人生」ということですね。

しかもこれからの人生が、自分の思い描いていた理想とは全然違うと知る。これはめちゃめちゃキツいネタバレですよね。この話って、社会批評にもなってると思うんです。

どういうことでしょうか?

現代では個人の社会格差が広がって、「親ガチャ」なんて言葉が流行ってます。人生がスタートした時点で、すでに行方が決まっていることへの絶望を、親ガチャという身も蓋もない言葉でシニカルに語る時代です。

ところがこの『美術部の上村が死んだ』は、人生のネタバレという設定によって、あらかじめ未来が決まった人生にそれでも価値はあるのか、という問いを差し挟む。しかも読切という限られたページ内で、その問いに対する作者の回答まで提示している。40ページちょっとの読切で、ここまで描ききるのは見事としか言いようがないです。選んでおいて申し訳ないんですけど、これ以上言うことがないんですよ。三崎さんってまだ連載してないですよね? 早く連載作品を読みたい作家の一人です。

SFファンのフェチをくすぐる描写に唸る

続いては森屋シロ『空飛ぶモグラ』です。これは佐久間さん好みのSF作品ですね。

なんといっても、画力がハンパじゃない。森屋先生は前作の『想造』が「ジャンプルーキー!」のブロンズルーキー賞に選ばれたそうですが、この人と比べられる新人作家はさすがに酷だろ、と思いました。この作品で連載してくれたらなぁと思っていたんですが、 今やってる『アストロベイビー』も当然面白かったんでぜんぜん満足です(笑)。

『空飛ぶモグラ』(©森屋シロ/集英社)

SFがお好きだと、細部の設定の甘さが気になって「これはちょっと......」と話が入ってこないケースがあると思うのですが、『空飛ぶモグラ』はいかがですか?

SFの基本を全部押さえてて、何も気にならなかったです。むしろSF好きに共通するフェチが入ってて喝采を送りたくなりました。

SF好きのフェチ……?

ずっと眠っていた古いメカが活躍するところです。この現実世界において古いというわけではなくて、作中世界において旧来のメカが再起動し、活躍する展開はSF好きにはたまらないわけですよ。ずっと動かなかったマシーンが動き出すことのロマンって、伝わりますかね......?(笑)。

わかる気はします(笑)。

でもとにかく『空飛ぶモグラ』に関しては、ジャンルとしての評価以前に、絵がうますぎます。見やすくて迫力もある。このクライマックスなんて、たとえ思いついたとしても描くのが大変だから、ふつう避けると思うんですよ。でもそこを描き切ってる。これが無料で読めるんだから、やっぱり異常です。

親父の命日に読み返す漫画

そして最後は『僕とお父さんについて』ですね。作者の薄場圭さんは話題作『スーパースターを唄って。』(小学館)を連載中です。

そうそう、『スーパースターを唄って。』が素晴らしかったから薄場さんの経歴を調べた結果、この『僕とお父さんについて』にたどり着いたんです。「少年ジャンプ+」でこんな短編も描いてたんだってびっくりしました。

父を失った少年が、そのわだかまりと向き合っていくドラマですね。

『僕とお父さんについて』(©薄場圭/集英社)

短編として完璧に近い構成で、美しい漫画ですよね。あとやっぱり、僕も親父をわりと早くに亡くしてるんで、個人的にもグッときました。僕の昔の思い出をすると、親父は漫画どころか本を一切読まない人だったんで、僕が読書していると「お前、本当に俺の子か?」って言ってくるんですよね(笑)。麻雀と野球くらいしか興味ない人で、僕は話も合わなかった。一緒になにかをやった経験って、それこそ作中の秋字と同じように、キャッチボールくらいしかなかったんじゃないかな。ベタですけど、親父の命日に読み直しましたもん。

継父との関係性も泣かせます。

そうですね。不在の父を巡る物語であると同時に、父になる男の話でもある。若い人にも、年齢を重ねた人にもぜひ読んでほしい作品です。時間をおいて読むと味わいが変わるんじゃないかな。僕もこれから何度も読み返すことになりそうです。

自分の敬愛する作家を守る、唯一の方法

3作品とも作家さんの別作品についても言及してくれました。

自分が気に入った漫画を描いた作者は、当然他にも面白いものを描いてそうだなと思ってチェックするんですよね。今回紹介したお三方はもっと注目されてしかるべき人だと思うので、他の作品にも言及してしまいました。

「少年ジャンプ+」は「同じ作者の作品」という項目もあるので、別作品にもアクセスしやすいですね。

はい、そういう細かい機能も便利だなと感じています。

「少年ジャンプ+」の魅力を、どのあたりに感じていますか。

とにかく作品点数が多くて、ジャンルが多様であることですね。宝物みたいな作品は、数打つことでしか生まれないと思うんです。だから、この時代に、このクオリティで物量作戦を仕掛けられる「少年ジャンプ+」は強い。今どきこんなに数を打てるマスメディアって他にないんじゃないでしょうか。

ただ、量産してる分、勝手に心配してるところもあって。「既に光っている」才能だけでもすごい数だから、「磨けば輝く原石」のような才能にまで手が回らないケースがあると思うんです。才能が見つかる場所であること以上に、才能がちゃんと育つ場所を作ることも重要。そこだけはこれからも見失わないでいただけたら嬉しいです。偉そうですけど(笑)。

漫画も文化であると同時にビジネスですから、そこがおざなりになる可能性は、どのメディアにもありますよね。

そうそう。だから僕ら読者も自分の好きな漫画というカルチャーを守るために、ビジネスの部分を少しは意識してもいいんじゃないかと思います。自分のひいきにしてる作家を守るために、気に入った作品の感想はSNSで発信したり、編集部にメッセージを送ったりすることも大事ですよね。漫画ファンが声を上げることも、これからの漫画文化の発展には不可欠だと思います。

最後に10周年を迎えた「少年ジャンプ+」への、期待とエールをお願いできますか。

このまま突き進んでください、ということだけですね。「少年ジャンプ+」立ち上げのプロジェクトを最初に聞いたときは正直、「無謀なことやるなぁ」と思いました。平日に毎日5作品前後更新するって、漫画雑誌を同時に数冊立ち上げるようなもんじゃないですか。いくら「ジャンプ」というブランドがあっても、スタートした2014年当時は「ウェブで描いてください」と言われたら漫画家さんも渋ったと思うんです。しかも無料で読めるなんて、収益化どうすんの、と。社内的にも周囲を納得させるのは大変だったはず。その苦労は想像を絶します。

そこから10年経って、漫然とメディアを続けるだけではなく、宝物のような作品をたくさん世に出すことに成功した。僕の毎日を楽しく彩ってくださって感謝しかないですよ。

あっ! ひとつだけお願いしたいことがありました。レジェンド作家の短編や読み切りが増えたら嬉しいです。週刊連載はしんどいけど、単発でなら描きたい、描けるって作家さんはいらっしゃるはずなので。それができるのもジャンプラならではかなと思います。これからも「少年ジャンプ+」を応援しています!

取材・文:安里和哲 撮影:持田薫
編集:野路学(株式会社ツドイ)

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